第三百七十八回 笑と笑と・【希少】

か行


少なくて珍しいこと。きわめてまれなこと。




「ねぇお母さん、冬になると食べたくなるものって色々あるじゃん。その中で一番何が好き?」




「えー?…そうねぇ…」




「私は肉まんかなー。コタツで食べるアイスも捨てがたいけど。ねぇ、お母さんは?」




「うーん。お母さんは…はちみつかな」




「…は…」




「はちみつ」




「いや、鍋とかおでんとか、そういうのを期待してたんだけど…」




「冬のはちみつ紅茶は希少品よ。何故なら、寒いときのはちみつって限りなく固体に近い液体になるから」




「…そうなの?」




「そう。注ごうと思って逆さまにするでしょ。まー降りてこない。それでもじーっと待ってると本当にもうほ、ん、とー…に少しづーつ動くのよ。もう歴史かヤマかって感じよね。でも全部降りてくるのを悠長に待ってなんかいられないから、握力フルスロットルで絞り出すのよ」




「はぁ…」




「でも粘度が尋常じゃないから、ポヘっと1滴だけ出てくるの。もう色からして “あれ?琥珀出てきた?” って見まがっちゃうわよね」




「…そうなんだ…なんか飲みたくなってきた…」




「うん、今の話聞いてた?…まぁいい時間だからお茶にしましょ。琥珀の大量生産、頼むわよ」




「うん、任せて。…あ!雪!」




「…本当だ…。積もるかもしれないわね」



【談】
すぐに手の届くところに置いておきたいのに、真冬になると完全に固まってしまうためタオルでぐるぐる巻き、且つ “逆さ倒立不安定タイプ” のためコップに挿して保存、となるとたかがはちみつ1本に仰々しすぎるため、最近はあきらめてそのまま直置きしています。冬眠してしまったはちみつは蓋を開けてスプーンですくっていますが、煩わしさここに極まれり。何とか解消したい問題です。

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