互いに自分のものにしようとする争い。奪い合い。
「昨日、吊り革の争奪戦に負けちゃってさ…」
「まぁ満員電車は仕方ないよね」
「違うのよ、精神面で負けたのよ」
「精神面?」
「目の前の吊り革が空いたから、ラッキーと思って掴んだのよ。そしたらさっきまで掴んでた女の子がペコって一礼して、またその吊り革をそっと掴んできて…」
「メンタル強めだな」
「出来れば離したくない、でも私何で赤の他人と相合吊り革してるんだろうって、その気まずさに耐えられなくなって…そっと手を離しちゃったよね」
「うーん。それは致し方ないかも…」
「その後はずっと謎の敗北感に苛まれながら床を踏みしめてたよね…」
「色んな思いにかられながら帰ってきたんだね…お疲れ様」
【談】
右も左も分からない、上京したての私が沢山の “都会の洗礼” を受けた場所がこの電車でした。どういった心持ちでいればこの “すでに他人の手に渡った吊り革” に再び手を伸ばせるのか、皆目見当がつきません。
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