第百三十五回 笑と笑と・【争奪戦】

さ行

互いに自分のものにしようとする争い。奪い合い。


「昨日、吊り革の争奪戦に負けちゃってさ…」

「まぁ満員電車は仕方ないよね」

「違うのよ、精神面で負けたのよ」

「精神面?」

「目の前の吊り革が空いたから、ラッキーと思って掴んだのよ。そしたらさっきまで掴んでた女の子がペコって一礼して、またその吊り革をそっと掴んできて…」

「メンタル強めだな」

「出来れば離したくない、でも私何で赤の他人と相合吊り革してるんだろうって、その気まずさに耐えられなくなって…そっと手を離しちゃったよね」

「うーん。それは致し方ないかも…」

「その後はずっと謎の敗北感に苛まれながら床を踏みしめてたよね…」

「色んな思いにかられながら帰ってきたんだね…お疲れ様」


【談】
右も左も分からない、上京したての私が沢山の “都会の洗礼” を受けた場所がこの電車でした。どういった心持ちでいればこの “すでに他人の手に渡った吊り革” に再び手を伸ばせるのか、皆目見当がつきません。

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